犬の僧帽弁閉鎖不全症—原因、症状、治療法、生活管理まで獣医師が徹底解説|動物医療センターPeco高輪台院

2024/12/31

犬の僧帽弁閉鎖不全症—原因、症状、治療法、生活管理まで獣医師が徹底解説|動物医療センターPeco高輪台院

犬の僧帽弁閉鎖不全症—原因、症状、治療法、生活管理まで獣医師が徹底解説|動物医療センターPeco高輪台院

僧帽弁閉鎖不全症とは?

犬の僧帽弁閉鎖不全症(MVD)は、特に小型犬で一般的な慢性的な心臓病で、僧帽弁が正常に閉じないために血液が逆流する疾患です。

この逆流により心臓に負担がかかり、進行すると心不全に至ることがあります。早期発見と適切な治療が、犬の生活の質(QOL)を維持し、寿命を延ばす鍵となります。


犬僧帽弁閉鎖不全症の原因—なぜ発症するのか?

僧帽弁閉鎖不全症の主な原因は以下の通りです:

  • 加齢:年齢を重ねるにつれて弁組織が変性しやすくなります。

  • 遺伝的要因:キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやトイプードルなど、特定の犬種は遺伝的にリスクが高いとされています。

  • 肥満や運動不足:心臓に過剰な負担をかける生活習慣。

  • 高血圧や感染症:これらが弁にダメージを与える可能性があります。


犬僧帽弁閉鎖不全症の症状—見逃してはいけないサイン

初期段階では症状がほとんど見られない場合もありますが、進行すると以下のようなサインが現れます:

  • :特に夜間や運動後に多く見られる。

  • 呼吸困難:息切れや呼吸数の増加。

  • 疲れやすさ:短い散歩でも疲れを感じる。

  • 食欲不振と体重減少

  • 腹水やむくみ:重症の場合、体内に水分が溜まることがあります。

症状が進行すると末期には以下の状態が見られることがあります:

  • 呼吸困難が著しくなる。

  • 持続的な咳や倦怠感。

  • 失神や倒れることが増える。


犬僧帽弁閉鎖不全症の診断方法

診断には以下のような検査が行われます:

  • 身体検査:聴診器で心雑音を確認します。

  • 胸部レントゲン:心臓の拡大や肺水腫の有無を確認します。

  • 心エコー検査:逆流の程度や心臓の動きを詳細に評価します。

  • 血液検査:心不全マーカー(NT-proBNP)の測定。

  • 血圧測定:高血圧の有無を確認します。


犬僧帽弁閉鎖不全症の治療

僧帽弁閉鎖不全症の治療は、進行度や症状に応じて行われます。以下に段階的な治療法を示します:

1. 内科的治療

  • ACE阻害薬(例:エナラプリル、ベナゼプリル)

    • 心臓の負担を軽減し、進行を遅らせる。

  • 利尿薬(例:フロセミド)

    • 肺水腫や腹水を緩和する。

  • ピモベンダン(Vetmedin)

    • 心筋の収縮力を高め、心臓の負担を軽減。

  • β遮断薬

    • 心拍数を安定させ、心臓の負担を減らす。

2. 生活管理

  • 食事療法

    • 塩分を控えた心臓病対応のドッグフードを選択。

    • タウリンやオメガ3脂肪酸を含むサプリメントが推奨される場合もあります。

  • 運動管理

    • 無理のない範囲での散歩を推奨。疲れすぎないよう注意。

  • 水分管理

    • 水の摂取量を適度にコントロール。

3. 外科的治療

  • 外科的手術(僧帽弁置換術)は、一部の症例で実施されます。日本国内では限られた専門施設でのみ行われますが、非常に効果的な方法とされています。


犬僧帽弁閉鎖不全症の生活管理—日常で気を付けること

散歩

  • 軽い散歩は体力維持に役立ちますが、激しい運動は避けてください。

シャンプー

  • ストレスを避けるため、手短に行いましょう。

  • 水温や部屋の温度を適切に調整して負担を軽減。

ドッグフード

  • 獣医師推奨の低塩分フードを選び、心臓に負担をかけない食事管理を心掛けましょう。


犬僧帽弁閉鎖不全症の予後—余命について

犬の僧帽弁閉鎖不全症(MVD)の予後は、病気の進行段階、治療のタイミング、生活環境、飼い主様のサポートなど、多くの要因によって大きく左右されます。以下に段階ごとの詳細を示します:

初期段階(ステージB1–B2)

特徴と治療の影響

  • 症状がほとんど見られないか、軽度の段階です。

  • 心エコー検査で心臓の肥大や軽度の逆流が確認されるものの、肺水腫や疲れやすさは見られません。

  • 治療の役割

    • ACE阻害薬(例:エナラプリル、ベナゼプリル)の早期導入が進行抑制に寄与します。

    • ピモベンダンの併用が余命延長と心不全への移行遅延に効果的です。

平均余命

  • 適切な治療を開始することで、2〜4年以上の安定した生活が期待できます。


中期段階(ステージC)

特徴と治療の影響

  • 肺水腫や疲労感など、心不全の兆候が顕著になり始める段階です。

  • 治療の役割

    • 利尿薬(例:フロセミド)を使用し、肺水腫を緩和。

    • ピモベンダンが心拍出量を増加させ、QOLを改善。

    • 食事療法としてナトリウムを制限したフードを推奨。

平均余命

  • 治療の徹底により、1〜2年以上の良好な生活が可能です。

  • 適切な運動制限とストレス管理が重要です。


進行段階(ステージD)

特徴と治療の影響

  • 重度の肺水腫、腹水、呼吸困難、食欲不振などが見られる段階です。

  • 治療の役割

    • 高用量の利尿薬や持続的な酸素療法を併用。

    • 緩和ケアとして痛みや不快感を軽減。

平均余命

  • 多くの場合、余命は数ヶ月から1年未満とされますが、治療と管理次第で延長が可能です。

  • 飼い主様のサポートと生活の質の向上に重点を置きます。


生活の質(QOL)を高めるためのポイント

  1. 定期的な健診:病気の進行状況を把握し、治療計画を随時見直します。

  2. 運動管理:軽度の運動は維持しつつ、疲労を避ける。

  3. ストレスの軽減:静かな環境を提供し、過度な刺激を避けます。

  4. 食事療法:心臓病対応フードやサプリメントを活用。

  5. 緩和ケア:末期段階では、痛みや不快感を最小限に抑えるケアを優先します。


まとめ

犬の僧帽弁閉鎖不全症は進行性の疾患ですが、早期発見と適切な治療、生活管理により、生活の質を向上させ、余命を延ばすことが可能です。

飼い主様の観察力とサポートが、愛犬の健康維持において重要な役割を果たします。

動物医療センターPecoでは、個々の症例に応じた最適な治療とケアを提供しています。愛犬の健康についてお悩みがある場合は、ぜひお気軽にご相談ください。